日本は地震大国であり、国を挙げた防災対策が進められています。政府は「防災立国」を掲げ、2026年度には防災の司令塔となる「防災庁」の設置を計画するなど、制度面での強化が図られているのが現状です。このような社会的背景の中、個人の資産と生活を守る重要な仕組みの一つが地震保険です。特に住宅ローンを抱えたり、長年かけて築いた家財をお持ちの40代以上の方にとって、その役割は大きいと言えるでしょう。
この記事では、地震保険を「個人の備え」という視点だけでなく、国と民間が協力して運営する公的なセーフティネットとして捉え直し、その制度の核心をご説明します。具体的には、地震保険がどのように成り立っているのか、政府はどのように関与しているのか、そして40代以上の方が契約を検討する際のポイントを、客観的な情報をもとにお伝えします。後半には、実際に感じられる疑問にお答えする形で、皆様自身が判断する材料を提供できればと思います。
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地震保険の本質:官民が連携した「生活再建支援」制度
まず、地震保険の根本的な性質を理解することが大切です。地震保険は、単なる民間の商品ではなく、政府が再保険という形で深く関与する「官民一体」の制度として1960年代に誕生しました。その主な目的は、被災後の生活の安定を図ることであり、損害を受ける前の状態に完全に戻す(原状回復)ための全額補填ではありません。あくまで、仮住まいの確保や再建のための重要な足がかりとなる資金を提供する「生活再建支援」 という位置付けです。
この制度設計には、巨大地震が発生した場合でも保険会社だけでは負いきれない莫大な損害賠償を、社会全体で支え合うという考え方があります。実際、2011年の東日本大震災では、政府と保険会社が協力して巨額の保険金を支払い、被災地の復興を下支えしました。
40代以上が制度を理解する意義:資産保護と社会的役割
では、なぜ40代以上の方が特にこの制度について理解を深めるべきなのでしょうか。理由は主に二つあります。
第一に、経済的資産の保護です。40代以降は、住宅や家財といった有形資産の価値が人生の中で相対的に高まる時期です。地震による直接的損害は、こうした長年かけて築いた資産に深刻な影響を与える可能性があります。地震保険は、その経済的打撃を和らげ、生活再建への第一歩を確実にする役割を果たします。
第二に、社会的なリスク分担への参加という側面です。地震保険は、多くの人々が少しずつ保険料を出し合うことで、万一の大災害に備える「共済」の性格を持っています。ご自身が加入することは、ご自身の安心を確保すると同時に、社会全体の防災力と復元力を高めることにもつながります。政府が進める災害に強い社会づくりの一翼を、個人の選択として担う意義があると言えるでしょう。
制度の基本構造:補償の範囲と限度額
地震保険は単独では契約できず、火災保険にセットして加入するのが原則です。その補償内容は、制度の根幹部分として以下のように定められています。
1.補償対象:居住用の建物と、そこに収容される家財(衣服、家具、電気製品など)です。
2.補償される原因:地震、噴火、またはこれらによる津波を直接・間接の原因とする、火災・損壊・埋没・流失などの損害です。
3.保険金額の設定と上限:
- 契約する火災保険の保険金額の30%~50%の範囲内で設定します。
- ただし、建物は5000万円、家財は1000万円が法律で定められた上限額となります
4.損害区分と支払割合:損害の程度に応じて、定められた割合で保険金が支払われます。
- 全損:時価額の100%(契約金額が上限)
- 大半損:時価額の60%
- 小半損:時価額の30%
- 一部損:時価額の5%
重要な注意点:ここでいう「時価額」とは、新品時の価格から経年による減価(劣化分)を差し引いた金額を指します。このため、保険金だけで建物をまったく同じ状態に新築する費用を全てまかなえるとは限りません。
契約時に注目したい制度面のポイント
地震保険を検討する際、以下の制度面での特徴を確認することが役立ちます。
- 保険料は構造と所在地で決まる:保険料は、建物の主要な構造(鉄骨・コンクリート造か木造か)と、お住まいの都道府県、さらには市区町村によって細かく定められた「地域料率」に基づいて計算されます。これは、地震リスクを地域ごとに評価し、公平な負担を目指す制度設計です。
- 各種割引制度の活用:保険会社によっては、建物の建築年数が1981年(昭和56年)6月以降の「新耐震基準」を満たしている場合の「建築年数割引」、または所定の耐震診断や耐震改修を行った場合の「耐震診断割引」「耐震改修割引」を設けています。これらの割引は、国が推奨する住宅の耐震化を後押しする政策にも連動しています。
- 「地震保険料控除」による税制優遇:地震保険の保険料は、所得税と住民税の控除対象となります。これは、個人の防災・減災努力を税制面から支援する国の制度です。年末調整や確定申告の際に、忘れずに申請することができます。
主要な保険会社の地震保険(基本補償)に関する情報
基本的な補償内容や保険料率の根幹は国が定めているため、どの保険会社で契約しても大きな差異はありません。選択の違いは主に、セットとなる火災保険の商品内容や、サービスの利便性、前述した割引の有無などに現れます。
| 保険会社 | 主な特徴(サービス・割引面) |
|---|---|
| 東京海上日動火災保険 | オンライン手続きや各種割引制度を案内。長年の実績がある。 |
| 損保ジャパン | 公式サイトでシミュレーションが可能。建築年数に応じた割引を案内。 |
| あいおいニッセイ同和損保 | 火災保険とのセット割引等を設定。 |
| 三井住友海上火災保険 | 耐震診断・耐震改修割引を案内。 |
| ソニー損害保険 | インターネット通販専用。オンラインでの手続きを中心にしたサービス。 |
| 楽天損害保険 | 同上。ポイントサービスとの連携が特徴。 |
※各社の具体的な商品内容や割引条件は変更される場合があります。最新情報は必ず各社の公式窓口でご確認ください。
加入を検討する際の具体的なステップ
- 現在の火災保険契約の確認:まず、ご自宅の火災保険の契約内容(保険金額、満期日)を確認しましょう。
- 必要保障額の検討:建物と家財の価値を踏まえ、地震保険でカバーしたい金額を考えます(火災保険金額の30~50%の範囲内)。
- 見積もりの取得と比較:現在の保険会社や他の会社から、火災保険とセットでの見積もりを取得します。その際、保険料だけでなく、適用される割引の条件やサービスも合わせて比較します。
- 内容の確認と契約:選択したプランの内容を最終確認し、必要書類を提出して契約を締結します。
知っておきたい重要な注意事項
- 免責(自己負担額):基本の地震保険には、契約者自身が定額を負担する「免責」の設定は一般的にありません。
- 補償の対象外:戦争、内乱などによる損害、または契約者・被保険者の故意や重大な過失、法令違反による損害は対象外です。
- 定期的な見直しの推奨:住宅のリフォームや増改築、家財の大幅な買い替えがあった場合は、適切な保障額に見直すことが望ましいと言えます。
よくある質問(Q&A)
Q1: 賃貸住宅に住んでいますが、家財の地震保険には入るべきですか?
A1: 大家さんが加入する地震保険は建物自体が対象で、入居者の家財は補償されません。ご自身の家財を守るためには、賃貸住宅向けの火災保険(家財担保や借家人賠償責任特約が付いたもの)に、地震保険特約を付加して加入する方法があります。
Q2: 住宅ローンの返済中で、金融機関から地震保険への加入を求められています。義務ですか?
A2: 法律上の義務ではありませんが、ローン契約の条件として、抵当権の対象である建物を保護する目的で、火災保険とともに地震保険への加入を義務付けている金融機関が一般的です。契約書の内容を必ずご確認ください。
Q3: 基本の地震保険だけでは心もとないと感じます。
A3: 地震保険の目的は「生活再建の足がかり」です。もし、より高額な補償や、建物の原状回復に近い補償、あるいは地震による各種費用(避難費用、片付け費用など)を手厚くカバーしたい場合は、民間保険会社が独自に提供する「地震補償保険」などの上乗せ商品を検討する選択肢もあります。これらは基本の地震保険とは別の商品です。
Q4: 地震保険の保険料は今後変わりますか?
A4: 地震保険の基準となる保険料率は、損害率の実績等を踏まえて見直されることがあります。また、政府は巨大地震に備えた財政的基盤を強化する観点から、制度全体の持続可能性を検討しており、将来、制度や料率が変更される可能性はあります。
データソース:
- https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bousaichou_preparation/kihonhoshin/pdf/r71226_honbun.pdf
- https://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/r07/113/news_01.html
- https://www.kantei.go.jp/jp/104/statement/2026/0105kaiken.html
- https://www.nihonjishin.co.jp/insurance/system.html
- https://www.nihonjishin.co.jp/corporate/outline.html
- https://www.nihonjishin.co.jp/pdf/disclosure/2024/a_05.pdf
- https://www.mof.go.jp/policy/financial_system/earthquake_insurance/jisin.htm
- https://www.giroj.or.jp/ratemaking/earthquake/reinsurance.html
- https://www.giroj.or.jp/publication/j_earthquake/j_earthquake_all.pdf
- https://www.sonpo.or.jp/news/shizen/2011quake/ctuevu00000054mq-att/taiou.pdf
- https://www.jishin-hoken.jp/50th
- https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/service/live/jishin/
- https://www.sompo-japan.co.jp/kinsurance/habitation/earthquake/
- https://www.aioinissaydowa.co.jp/personal/product/tough/house/earthquake_comp.html
- https://www.ms-ins.com/personal/kasai/jishin/
- https://www.sonysonpo.co.jp/fire/earthquake_004.html
- https://www.rakuten-sonpo.co.jp/family/tabid/92/Default.aspx
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1145.htm
- https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1146.htm